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材料のことやお道具、創作のエッセンスなど。

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更新日 2020-06-29 | 作成日 2008-01-29

毛ぐるみ、登場!

月刊「MUTTS 2001年4月号」(マガジンハウス)に掲載


c_mini_image1.jpg初期の毛ぐるみいもむしちゃん、百目ちゃん、ひとつめちゃん。
こいつらは、こやまワールドにひっそりと生きていた空想上のいきものたちが実体化して、現実の世界にまぎれこんじゃった迷子たちです。

家のなかをよーーーく見てみると、部屋のすみやタンスの陰、ソファーのクッションの下などで発見できます。

こいつらは、羊の毛を固めてつくった、手作りの「フェルト」でできています。

ウレタンで作った動物のかたちを芯にして、からだ全体をくるむように繊維状の原毛をちぎってならべて、お湯をかけて、セッケンをつけてゴシゴシとこすると、バラバラだった原毛がどんどん固まって、動物のかたちになるのです。

縫い目はないので、ぬいぐるみではありません。毛ぐるみです。

柴犬くらいの大きさひとつめちゃんなどは、生まれるまで、10日間くらい、お湯をはったお風呂につかって、ゆっくりとからだを作られました。まるでほ乳類のいきものたちが、子宮の羊水のなかで命を育むようにして。

毛ぐるみたちは、どうやら人間が好きなようなので、是非、友達になってやってください。

毛ぐるみ誕生のひみつ

月刊「染織α 2005年2月号」(染織と生活社)に掲載

sacrifi.jpgこわい?「可愛いけど、よく見ると恐い」
 私の作品に接した方がおっしゃる感想のほとんどは、この言葉です。言葉の意味するところは、私の意図と同じもの。だから私は、私のフェルト作品によって、私の気持ちをきちんと伝えられていることに歓びを感じます。


 実は私は、絵を描くことが得意ではありません。でも、ゼロから何かを創りたいと思っていました。そんな時に偶然出会ったのがフェルトでした。

原毛から作るフェルトというのは、あまり一般的ではありません。最低限の縮絨方法についての決まりごとはありますが、その後の作業についての決まりごとや作品見本などはほとんどありません。

つまり、何をやっても自分のオリジナルになるわけです。何物かをゼロから創造したいと考えていた私にとって、フェルトはまさに好都合な素材だったのです。

私は、子供が粘土をこねるのと同じような感覚で作品を作っています。つまり、遊びながら、手探りで。

kegurumi_flo3.jpgかわいい?作品を作るにあたって、下絵を描いたことはありません。頭の中で、ぼんやりと形が浮かぶのをただ待つだけです。足が四本とか、角がついているとか、手が長いとか、胴体が長いとか、そんなぼんやりとしたイメージを頭の中だけで描きます。
そして、何となくイメージが固まったら原毛を取り出し、イメージどおりの形になるように、お湯と石鹸を使って縮絨していきます。縮絨するときは、目と、手の感触を頼りに作業を進めていきます。


 私が作るフェルトの生きもののことは「毛ぐるみ」と呼んでいます。「ぬいぐるみ」ではなく、毛を固めているだけなので「毛ぐるみ」です。


 毛ぐるみは想像上の生きものですし、見たり触ったりして楽しむだけなので、フェルトとしてしっかりと縮絨していることは重要ではありません。あくまでも手触りの柔らかさや心地よさにこだわって、縮絨していきます。



kegurumi_an3.jpgきもい?縮絨が終了したら、乾燥させます。そして乾燥したものを作業机に並べて置いておきます。そして待ちます。何を待つかというと、毛ぐるみたちが語り始めるのを待つのです。彼らは、こんなことを話しかけます。

「目をここに付けてくれ」
「髪は何色にしてくれ」
「しっぽを何本つけてくれ」

 もちろん本当に話しかけてくるわけではありませんが、そのように見えたり聞こえるような気がするのです。そうしたら、毛ぐるみが望むように、目や髪をつけてやります。そして、毛ぐるみたちは完成します。

 さて染料についてなのですが、実は私は染めるという作業は行っていません。縮絨と形づくりだけに専念したいので、今は染めるという作業には敢えて時間を取らないことにしているのです。

1023_3.jpgいろんな色でそのため染色済みの原毛を使用しているのですが、その際の色選びにはこだわりがあります。自然染料で染めたようなナチュラルな色合いではなく、化学染料を使用したような人工的な色合いのものを選択するということです。
 これまでのフェルト作品というと、植物染料を使用したナチュラルな色合いのものが多かったように思います。そこで私は、自分の作品を差別化するために敢えて人工的な色の原毛を選ぶことにしたのです。もちろん私が、ビビッドで人工的な色合いが好きだということがいちばんの理由です。

個人的には、青味がかった色合いが好きです。赤であっても、黄味がかった赤よりは青味がかっている赤を選びます。
 多色を使用する場合には、透明水彩絵の具で絵を描くときのような感覚で、下の色に重ねた時の発色の具合を見ながら色を選びます。




sazae.jpg自由な色とかたち毛ぐるみたちは、私の想像の産物ですが、モチーフや色使いの参考になっているものは少なからずあります。それは、昆虫です。毛ぐるみ作品の中には、蜘蛛をイメージさせるものもあります。
 女性では珍しいとよく言われますが、私は幼少の頃から昆虫が好きでした。三歳くらいの頃の愛読書は学研の昆虫図鑑で、野山へ行く時はいつも手に持って歩いていたものです。そのせいで昆虫図鑑はぼろぼろになって、ページがばらばらになってしまったほどです。


 特に好きだったのは、蜻蛉や蝶などの色鮮やかな昆虫です。オニヤンマの黒と黄色のストライプや、アオスジタテハの涼やかなミントグリーンに心ときめいたものです。赤と黒のコントラストが可愛いテントウ虫も大好きです。
 中でも、キアゲハの幼虫を飼育することに情熱を燃やしました。キアゲハの幼虫は、黄緑色のカラダに黒のストライプがあり、黒のストライプの上に赤い点々があるという派手なデザインの芋虫です。そして怒るとオレンジ色の角を出します。


 こうしてみると、私の作る毛ぐるみのプリミティブな胎児のような形と鮮やかな色合いは、どうやらキアゲハの幼虫に多分に影響されているような気がしてきました。原毛のやわらかい手触りも、芋虫のそれに近いかもしれません。


cre_ginger1.jpg胎児のように最初にも書いたとおり、私は作品を作る際には何も考えないことを大切にしています。
それでも、作品作りのキャリアが長くなるにつれ、作品は次第に形を変えつつあります。
芋虫のように手足がなかったものが、やがて足が出て、最近では手が出てきました。
もしかしたら、子宮の中で人間が魚から人間へと進化の道を辿り直すように、私の毛ぐるみたちも人間のカタチに近づいているのかもしれません。
というか、毛ぐるみが進化しているというより、私自身の内面の進化の現れなのだと感じます。今さらながら私は、毛ぐるみとともに進化しているのでしょう。

 毛ぐるみは、その時その時の私の感情や心の内面を適格に再現しています。意外にも、その毛ぐるみたちを愛してくださる方がたくさんいらっしゃることを、私はとても嬉しく思っています。
「可愛いけれど、近づいてよく見ると恐い」
 それは毛ぐるみへの感想ではあるけれど、私自身の、そして現代の女性たちの真の姿なのだと思います。